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CIC NOTE
先日、近所でサーカスが開催されていることを知り、試しに観に行ってきた。
もともとサーカスにはさほど興味があったわけではなく、むしろ好きなほうではなかった。
というのも、幼少体験からサーカスには、暗いテント、突然響く大きな音、動物の独特な匂い、そして個性的な人々の奇妙なパフォーマンスがあり、少し怖い印象を抱いていたからだ。
そんな私が近所のサーカスに足を運んだのは、今年初めに中国で観たサーカスショーでの体験がきかっけとなった。
これまでにも世界的に有名なサーカス・エンターテインメントを観たことがあったので、中国の地方都市で行われるサーカスには、正直あまり期待していなかったが、実際に観てみると、舞台装置や演出、ショーの構成、テクノロジー、音楽、衣装、デザイン、ユーモア、そして人間の身体能力を駆使したパフォーマンスなど、すべてが非常に高いレベルで展開されており、総合芸術の神髄がそこにはあった。
さらに、舞台演出の芸術性にくわえ、古典サーカスのコミカルな演出が随所に組み込まれており、老若男女が楽しめるエンターテインメントとしての完成度は極めて高いものだった。
この中国で観たサーカスショーの情報は日本ではほぼ紹介されておらず、おそらくほとんどの日本人が知らないだろう。しかしその芸術性やショーとしての完成度は、間違なく世界レベル。インターネットやSNSといった通信とメディアが発達していてもなお、知らないことや、知る機会がないことがたくさんある。今回のように行ってみないとわからないことが、まだ世界には存在することをまざまざと感じた瞬間でもあった。
そして仕事柄、このショーの裏側もついつい想像もしてしまう。
使用機材や施工方法、制御システム、舞台美術や設計、構造、安全性や耐久性、衣装デザイン、演出やストーリーテリングの流れ等、あらゆる要素に想いを巡らせた。またキャストの人数やキャパシティ、さらには事業コストや採算性等など・・・・このサーカスショーは、様々な要素が見事に組み合わされ、統合された完成度の高いプログラムとなっていた。
昨今、いろんなところで ”エンターテインメント” “体験価値” という言葉を耳にする。あらためてエンターテインメントって何だろう?と考えることがある。
エンターテインメントは体験でもあり、施設、市場でもあり、さらにコンテンツでもあり、広義に使える便利な言葉だ。しかし私は体験を修飾する言葉であると思う。
そして体験とは、いつ、どのような環境で、誰と、何をするか?それによって同じ体験でも大きく価値は変化するものであろう。
近い将来、AIやテクノロジーの進化により、この体験価値を数値化し、ビジネスや空間づくりのデータとして活用されていく時代がおとずれるかもしれない。(体験価値というものが数値化できたのなら、今回体験したサーカスショーは、きわめて高い数値をはじき出しただろう)
しかし、何もかもが事前にデータで予測され、合理的な手段や事象を選択し、生活していくことになるのだろうか?ビジネスの上では便利なツールになるかもしれないが、やはり今回のサーカスとの出会いのように、偶発的な出会いで心躍らされる機会があった方がオモシロイ。
体験価値の向上のために、「デジタルテクノロジーを活用して・・・」 「イマーシブな体験を・・・」というリクエストも頻繁に耳にする。テクノロジーはあくまでも体験を拡張させたり、向上させるための手段であり、体験を構成する上での本質はコンテンツなのだと思う。
しかし、ときにテクノロジーに頼ってコンテンツそのものを補完させようとするケースも少なくはない。コンテンツ自体に魅力がなければ、豊かな体験価値は生まれない。今回中国で観たサーカスショーは、コンテンツが魅力的であり、シンプルでストレートに観客に伝わる事が体験価値を高いものにしてくれたのだと思う。
豊かな体験価値とは、人間の感情を揺さぶるワクワクする体験ができたか否か?そんなふうにも感じた。では人間の感情を揺さぶる体験価値とは何だろう?それは人の手によってつくられた芸術的なモノやコトから発せられるエネルギーをダイレクトに感じられる事だったり、言葉にできない感情がこみ上げてくることだったりする事かもしれない。
また言語での説明的なコミュニケーションは必要ではなく、直感的に感じられるノンバーバルな表現による体験も重要なのだとも思った。これは、今後いかにテクノロジーによって疑似体験が進化しても敵わない、不変的な感覚なのだろう。この不変的な感覚と、コンテンツを拡張させるテクノロジーを見事に融合させていたのが、このサーカスショーだった。
最後に今回は私たちコンテンツ・インテグレーションセンター(CIC)についても触れておきたいと思う。「コンテンツを起点に心躍る空想をデザインとテクノロジーで実装し、新たな体験価値を創り出す」 チーム。いわばこれはここで紹介したサーカスショーのコンセプトと似ているのかもしれない。
デザイナー、プランナー、演出家、各種専門技術者、そしてプロモーターという様々な多彩なタレントが手を携え、知恵と情熱で感動体験を創り出す。
まさに私たちは、人々を愉しませる ”サーカス一座”というべき存在でありたい。