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CIC NOTE
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田仲史明 2026.01.12
タイトル 空間デザイナーの思考パターン例
CICクリエイティブディレクション部の田仲史明です。
近年は、おかげさまで大規模な物件に参加させていただくことが増えてきました。そのため、単発的なアイディア出しだけでは収集がつかなくなることが多くなり、着地も見越しながらアイディアを拡散させるという矛盾することが求められるのが悩みでした。そんな状況の解決の糸口になりそうな、発想から着地まで含めた、空間デザイナーとしての思考パターンをご紹介します。
<要素の掛け合わせから新しい発想を>
乃村工藝社では過去に『ひらめきエンジン』という発想支援ツールを他社とともに開発したことがあります。リアルタイムで抽出するトレンドワードと、あらかじめ設定したワードをランダムに組み合わせ、次々とビジュアライズすることで、思いもよらないアイディアの種を生み出す仕組みでした。
この「ひらめきエンジン」のように新しい発想を出そうとする際に、何か異なるものを掛け合わせてみるというのは、これを読んでいる皆さんも、デザイナーにとっても、日常的に行っている発想手法の一つですよね。私ももちろんその一人で、企画やデザインの初期段階では、この方法をよく使っています。
最初に、新しい発想を求められる空間デザインの基本構想段階で、私が用いる発想パターンからアイディアの集約にいたるまでの過程をご説明します。
<ゲストの感情と体験要素の洗い出し>
私の場合は、図1のように、ゲストに特定の「感情」をもたらす、二つの「体験要素」を検討します。この空間だからこそ得られる感情を喚起させるために、今までにない体験要素の組み合わせで空間を作れば、新鮮さ、驚き、意外性があり、予定調和にならない体験、感情が得られるはずです。
図1:二つの要素を掛け合わせる

ただし、これで新規発想だと言えるほど、空間デザインの世界は単純ではありません。空間デザイン一つの感情を想定するだけでは終わらないのです。施設に近寄るときの期待感、入った瞬間の非日常感、体験自体が喚起する感情、体験後の余韻、振り返って誰かに話すときにぶり返す興奮など、ひとつの施設でゲストに喚起させるべき感情は複数あります。また、メインの空間だけでなく、トイレやコインロッカー、待合空間などの副次的な空間も、体験をより印象的で、心地よいものにするための欠かせない構成要素です。
空間の基本構想段階では、それら副次的な感情、体験、空間構成要素も含めて洗い出す必要があります。ですが、それらをまじめに出していくと図2のようになります。
図2:喚起される感情と体験要素を列挙する

はっきり言ってこの洗い出し作業は疲れます。このまま提案したら、提案を受ける側も「簡潔に一言で言ってくれ」とあきれるのではないでしょうか?(笑)
このように、ゲストに体験してほしい感情と構成要素をそれぞれ列挙するだけでは、施設全体の統一感も、ストーリー性も生まれにくく、ゲストにとっても「いろいろなものがたくさんあった」で終わってしまう、散漫な感想しか出てこない空間になってしまいます。
また、たくさん出せば出すほど、往々にして、設計が複雑になり、関わる専門家も増え、コストも納期も跳ね上がる・・・結果として提案の魅力だけでなく、実現性も低くなります。魅力が感じられ、実現性の高い形に変換、整理していかなくてはなりません。
<体験要素の集約と円環構造>
ここに、他にはまねできない新規性の高い空間を生み出す余地があり、空間デザイナーならではのやりがいを感じるタイミングだと私は考えています。ここからは拡散したアイディアを集約させる過程を説明します。
図3のように、隣接する感情の体験要素を兼用させて減らしていきます。喚起される感情を体験ストーリーに沿うように整理分類していきながら、できる限り全体の体験要素がシナジーを生むように多様性を保ちながら集約していきます。
図3:喚起される感情と体験要素の整理1

ここまででも十分なのですが、このまま進めようとすると、人は欲張りですから、プロジェクトが進むたびに、さらに要素G、要素H・・・と付け足したくなってしまうので、施設全体イメージを固めるため(提案をより簡潔にするために)図4のように、体験要素の両端を共有します。
図4:喚起される感情と体験要素の整理2

こうすると、延々とアイディアを出すことに終止符を打つことができます。これを図として整理すると図5のようにひとつなぎのかたまりになります。
図5:円環イメージ

こうすると、全体を5種類の要素で固めることができ、まとまりのある空間ができそうに見えませんか? ちなみにこれは要素の整理としての作業なので、ゾーニングや平面計画などとは合致しませんので、その作業は改めて実施することになります。
<エンターテインメント施設への応用例>
「感情1」とか、「要素A」とかではよくわからないと思うので、ここからは、過去に提案で使ったものをベースに、この記事用にアレンジして具体例として挙げてみます。近年私が担当することの多い、「エンターテインメント施設」を想定して、言葉を具体化してみましょう。この具体例での発想の目的は「エンターテインメント施設に求められる要素は何か?」
とします。
エンターテインメント施設では当然「驚き」が欠かせません。わざわざ出かけることの対価として「達成感」や、だれかと共有できる「一体感」も欠かせません、他に私の好みとして例えば「chill」や「恍惚」といった感情も得られる空間を作ろうとします。こういった感情の部分だけ並べると図6のようになります。
図6:喚起される感情と体験要素(エンターテインメント施設の場合)

さて、「これらを喚起させる体験要素は?」と、アイディア出しを行っていきます。この工程ではピンタレストなどにイメージをためていきながら、それらを象徴する言葉を挙げていってKJ法でまとめることが多いです。それらの言葉はたいてい、遊びの要素や演出手法、空間のエレメントやマテリアル、飲食物などです。この例では、近年では欠かせない映像演出をありきで、複数の要素、感情を整理しながら、図7のように仕上げています。場合によっては体験要素が出そろった後で、感情を示す言葉を修正する場合もあります。。
図7:喚起される感情と体験要素(エンターテインメント施設の場合)

この発想パターンを試して以来、各感情と要素部分は毎回楽しみながら、この例よりももう一段階具体的な言葉で埋めて検討しています。数が増えることも減ることもあります。これも円環にしてみると図8のようになります。
図8:円環イメージ(エンターテインメント施設の場合)

ここまで整理できたら、空間デザインの仕事が一気に進んでいきます。この図をベースとして、ここまでに集めたイメージ画像や言葉も参照しながら、体験ストーリー、ゾーニング、部分ごとのイメージコラージュやイメージパースを作って空間方針に仕上げます。そして、平面計画とともに、ファサード、エントランス、メイン体験、副次的な通路や設備などそれぞれ具体的な空間デザインに取り掛かっていきます。
空間デザイナーの私にとって、この手法であれば、無限に掛け合わせるだけではなく、円環につなげることで収束させるところまでセットにしているので、総体のイメージに立ち返りやすく、体制、機材、マテリアルも有限にまとめることができ、重宝しています。
ゲストにとっては、この円環の中心が空間(施設)のイメージになり、円環の外周が楽しさの評価軸になります。ここで挙げている感情のなかで印象に強く残ったものを取り上げて、知人や友人に感想を伝えやすい体験になっているはずです。
今回は空間デザイナーである私が、どのように集約させるかも見越して新しい発想を出すデザイン思考パターンの一つをご紹介しました。ほかにもいろいろな手法がありますが、私は近年、この手法を重宝しています。100%どんな場合にも使えるというわけではありませんが、皆さんも試しに使ってみてください。感想を伺えたらうれしいです。